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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

初めての砂漠

               ≪九月二十四日≫    -壱-

  昨晩眠られなかった事と、今朝早いことで、無事起きられるかどうか、心配していたが午前六時ピッタリに目を覚ました。
 やはり、熟睡していても、どこかピリッと張り詰めたものが、体内時計として存在しているのかも知れない。
 昨晩のうちに、荷物の整理はしていたので、シュラフをバックパックに詰め込んで用意は完了。

 南京虫の被害が特に酷く、恨みの宿ではあるが、旅が終れば貴重な体験として、感謝すべき宿となるのかも知れない。
 そういえば、酷い目に合う度に、近頃そう前向きに考えるようになってきた。
 まだホテルは眠っている。
 そ~っと、ホテルを後にする。

 まだ朝靄が白くかかってはいるが、街は静かに動き出していた。
 ホテルを出て、左に進むとすぐ、アジア・ハイウエーに出た。
 この街には不釣合いな立派な道が、真っ直ぐと東西に伸びている。
 右へ走るとインドへ、左へ進むとアフガニスタンだ。
 そのアジア・ハイウエー(とは言っても、日本で言う町道並のただ広いだけの、舗装された道路でしかないのだが)を横断するとすぐ近くに、目指すバス・ターミナルがある。

 ターミナルに入ると、現地の人たちでごった返している。
 誰が乗客で、誰が乗務員で、誰が事務所の人たちなのかまるでわからない。
 ここからは、いろんなルートへ向かっていると見えて、何台ものバスが出発を控えて準備をしている。

       俺 「どのバスかな?」

 バス会社の人らしい人に声を掛けてみる。

       俺 「スンません!このバス、カブールに行きますか?」
       ? 「わからん!」

 バスの会社の人ではなかったようだ。
 何台ものバスの間を、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしているうちに、何台もいるバスの中でも一番良さそうなバスを見つけて、バスの前へ出てみると、”Kabul”と書かれているではないか。

       俺 「これだ!このバスだ。」

 バスの屋根の上を見ると、バス会社の人だろうか、一人屋根に登り、乗客たちの荷物をバスの屋根に載せているところだった。
 この時点ではとにかく荷物は屋根の上と思っていたから、砂漠の中を走るんだと言うような事は、まるで頭になかったのだ。
 だから、シュラフを取りだして置くなどという事など、これっぽっちも考えないで、自分の荷物を肩から下ろすと、屋根の上の人に放り投げてしまったのだ。

 荷物を屋根の上に預けると、仲に入り一番後ろの席に座った。
 一番良さそうなバスと言っても、ここパキスタンにしてはという事で、日本のバスをイメージしている俺にとっては、なんとも酷いバスではある。
 まるで朝市のようなバス・ターミナルを、5番乗り場から定刻午前七時を五分遅れで出発。
 すぐアジア・ハイウエーに入り、ペシャワールCant駅で数人の乗客たちを拾い、U-ターン。
 ペシャワールCity駅でも数人の乗客たちを乗せて、バスはやっと快調に走り出した。

 座席NO30.
 32人乗りのバス。
 運良く、周りは汚らしい格好をした毛唐ばかり。
 結局、旅行者が一番後ろの席を占領したようだ。
 ほかは全て、現地の人たち。

                     *

  三十分も走ると、景色は一変した。
 石と土だけの山、そして草木などほとんど見られない平原が何処までも続いている。
 これがあの噂の砂漠の一端かと思うと胸が躍ってくるのがわかった。
 ところどころ、見え隠れする集落には、何かのバザールでも開かれているのか、何処からやって来たのか不思議なほど人が集まってきていて、なにやら賑やかに騒いでいる様子が窓を通して見えてきた。

 バスは一番賑やかな、バザール真っ最中の中に停まった。
 人々がバスに近寄ってくる。
 停車したと言うより、道が人で溢れている為、バスは前へ進めない。
 本当に何もない砂漠の中に突然現れたバザーに、何百人と言う人たちが何処から集まってきたのか驚かされる。

 十数人の野次馬たちが、笑いながらバスに近寄ってくる。
 これじゃあまるで、サファリ動物園で、猛獣達を眺めている雰囲気ではないか。
 皆思い思いにターバンを頭に巻きつけて、長い布切れを身体中に巻きつけている。
 サリーと言う布切れだろうか。
 これも砂漠で生活する人たちの知恵だそうな。
 砂漠の砂を防ぐ為と太陽に身体の水分を取られないためとか。

 顔を見ると、どこか違う。
 パキスタン人とどこか違っている。
 モンゴル系の人種に似ているのだ。
 二昔前の日本人にもどこか似ているから面白い。

 そんな賑わいの中を、毛唐の若い女が一人で歩いている。
 なかなかの美人で、身なりもきちんとしているから、単なる旅行者ではないだろう。
 乗客たちはジッと動かない。
 賑わいの向こうに、たくさんの石が並んでいるのが見える。
        俺 「墓かな?」
 旗がなびいているのも見える。




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